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38物語 第5話 第3回
こんばんわ。
今夜の金曜サスペンスを担当することになりました渋江です。
…嘘です。

なにもサスペンスと決まったわけではないのですが、
やってきました38物語第5話の「転」パート!

何を転がしゃええんや!と
今回も難しいお題をいただきまして、
大変苦し…楽しく書かせていただきました!

毎回毎回、個性が光まくるこの投稿群ですが、
井出、山内とうちのゼミでもなかなかアバンギャルドな人たちが続いて
最高に面白展開になっておりました。
私の投稿でそれがどう転ぶか、お楽しみいただければと思います…!

読んでない方は、是非2回前の井出くんの投稿から読んでくださいね(=゚ω゚)ノ

では!ラストスパートです!


ーーーーーーーーーーーーーーーー




残り2分10秒。


手元のiPhoneがリツイートの通知を知らせて、鳴り止まなかった。

ピポン・ピポン・ピポン・ピポン

小さい頃に見たウルトラマンのカラータイマーのように「時間がないぞ」と、
だんだん私を焦らせていく。

「そうだ、左の親指だ。理由なんかない。お前が息子への愛情を示すためなら、俺の言うことを聞くことを確かめるだけだ。」


「……」


画面上では相も変わらず、愛しい我が子がぐったりした様子で縛られている。
犯人の姿は見えない。
翔太の背後は黒のカーテンで覆われていて、どこにある場所なのかわからない。
ただ、散乱するゴミ、痛んだ畳、薄暗い電気、そこが不衛生で寂れた場所であることはわかった。

混乱した。
さっきまで、ツイート欲にかられ昂ぶった気持ちで全世界に最悪の状況を発信していたのに、
いまはもう、翔太のことで頭がいっぱいだ。

どうしたら助かる。
どうしたら私のもとに返ってくる。
どうしたら元の生活に戻れる。
どうしたら、どうしたらーーー

奇妙な高揚感と心臓をえぐるような心配を繰り返し、
私の心はもう崩れる寸前だ。


「プァーープァーーー」


近くを通ったらしい、豆腐屋のラッパの音が聞こえてくる。
いつもの日常を予感させるその音が、
今はひどく私を苛立たせる。

音を振り切るように首を左右にふった瞬間、
私はハッとした。
ブラウン管の画面からほんの少し遅れて同じ音が聞こえてくる。
コーラスののった歌のように、二重に聞こえてくるその音は、私に一つの確信を与えた。

このあたりで主婦を続けていればわかる。
この豆腐屋の主人のラッパは、調子が少し外れていて、唯一無二のものだ。
つまり、このラッパがほぼ同時に聞こえるということは、画面の向こうの我が子と恐ろしい悪人は、すぐ近くにいる。

そして、このあたりに
画面にあるような荒んだ状況を作りえる建物は、
私がいる《アパートエルヴィータ》だけ。

翔太は、
同じ建物にいる……!


親指くらいなんだ。
刺し違えてでも翔太は取り返す。


近くにいるという安心感だけで、

私は覚悟が決まった。


「…わかったわよ。見てなさい。」


私は、右手で包丁を持ち直し、
指示通り、左手の親指に刃を当てた。
犯人の悲鳴が混じった声が聞こえたが、構わず力を込めた。



「ァアアァァアアァ!!!!!」



切れの悪い包丁によって、指からは血が滴った。
利き手ではなかったため、力が入らず切断なんて無理だった。

翔太が風邪で寝込んだ時に作った、野菜たっぷりのお粥。
その時、焦って指を切ったのと同じくらいの痛みだった。
血がだらだらと流れ、見た目にはひどく大袈裟だ。
主婦ならこれくらいの経験あるんじゃないの?と、拍子抜けしてしまった私とは裏腹に、
犯人の震える声が聞こえた。


「…ぃ…よし。お前の愛情は…よく…わかった。息子を助けるヒントをやろう…。あ、そこにある包帯で止血しても、いいぞ。」


実際には、切断できていないのだから
私は要求に答えてすらいないのだが、
犯人はそれで納得したらしい。
妙だ。

止血をしながら、俯いた私の怪訝な表情に犯人は気付いていないだろう。
さながら、私は名刑事であった。
子を思う母の愛情は、ここまで人に賢くするのか。

(愛情……?)

犯人の言い回しに、ひっかかるところがあった。

「…ねぇ、ヒントの前に、翔太の声を聞かせて。」

「いいだろう、その指は見せるんじゃないぞ…騒ぐと厄介だからな…。」


一度、カメラが動かされ、翔太を映すのをやめた。
意地でも犯人は、自分の姿を撮られたくないようだ。
横にふったカメラによって、部屋の間取りが理解できた。
小さめの黒いカーテンが高い位置にかかっている。おそらく、出窓であろう。
私のいる308号室にも出窓が同じ位置についているからだ。
古いアパートだ。間取りが一緒ということが意味するものは大きい。

翔太のいる部屋が間違いなく、この《アパートエルヴィータ》にあれば、
おそらくそれは、108号室か、208号室のどちらかだ。


私が、火サスも顔負けの推理をしている間、
「起きろ、ママだぞ」と翔太が起こされる声が聞こえた。
乱暴はされていないようだ。


カメラがゆっくりと、翔太の方に向けられた。
私は、左手を後ろに回した。
眠っていたのか、翔太は眠たそうな声をしていた。


「ママァ…いるの?」


「……ママ?」


別れた夫は、翔太に、私たちのことをパパママと呼ぶことを強制していた。
私は、夫のそういうところが苦手だった。
翔太にママと呼ばれるたび、内心とてもくすぐったくてなんだか冷ややかな気持ちにさせられた。
離婚を機に今度は私が、同じようなことを翔太に強いてしまった。
ほんとはこういうのが、嫌だったはずなのにね。
それ以来、翔太が私を「ママ」と呼んだことはない。


「…ねぇ翔太…ママって言った?」




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2014/11/14 | 38物語 | コメント(-) | トラックバック(0) | page top↑
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